書評 フィリピンパブ嬢の社会学 その2
本書の概要
フィリピーナ ミカの姉は日本のフィリピンパブで働いていた。
日本人と正式に結婚し、フィリピンパブでもエージェントを経由するタレントではなく、個人としての契約で稼ぐ。
一人の稼ぎでマニラの郊外の高級住宅街に家族のために一軒家を購入する。
近所は医者や政治家などハイクラスの人ばかり。
ただそこで暮らす父、母、妹やその他の親族にはまともな定職はない。
そんな姉を尊敬するミカは姉のアドバイスに素直に従い、暴力団の息のかかった男と偽装結婚して名古屋に来る。
そこで主人公の大学院生と出会うのである。
形式上の離婚、大学院生との正規の結婚、配偶者ビザの取得を経て、彼らは日本で暮らしを立てている。
大黒柱は夫ではなく、ミカの方である。
フィリピン人は兄弟や家族のために働くのは当たり前。
貧困層でもその気持ちは変わらない。
フィリピンとの付き合いのある方ならよく知っているストーリーが展開される。
ただ少し驚いた箇所もある。
ミカと姉、ミカの夫がフィリピンに一時帰国。
2人にとっては凱旋帰国のようなもの。たくさんのお土産と20万円ほどの現金を用意して、マニラ郊外の「豪邸」に到着。
連日、親類やら近所の人が集まりパーティパーティ。帰りには一人100ペソ~200ペソくらいのお土産を手渡していく。
筆者(ミカの夫)はある日、父親と話をする。
(ミカたちが、いかに劣悪な環境で働いているか、かつて住んでいたところがどれほど不衛生でミカが苦しかったか)を彼は丁寧に説明する。
すると父親は「そんなことは知らん」と言ってプイッと席を立ってどこかにいってしまう。
もう1つ驚いた箇所
フィリピンに凱旋帰国して一週間ほどが過ぎたころ。
20万円の現金はすでに底をつく。
翌日、ミカの妹がミカに頼む。「娘のために歯医者に行きたい」
ミカがすでに「もうお金がない」ということを説明すると
妹は非常に不機嫌になり、怒って出て行ってしまう。
しばらくのちに筆者が妹と話をする。
話はどうも平行線。
妹の言い分は「フィリピンには仕事がない。私たちはミカと姉に頼るしかない」という。
彼らは筆者に直接、無心をしてくることはなかったそうだ。
その後、話し合いを経て、不必要な新車を手放し、あらたまなマンションの契約を破棄して、生活コストを下げることにはなっているそうだ。
ここからは私の感想。
このような生活スタイルがフィリピン人一般のものなのかは、私は判断するほどの材料をもっていない。
日本人の感覚ならば、仕送りに主に頼るのは仕方ないにしても、限られた予算をどうやって有効に使うか、常に計算と節約を心がけるだろう。
トイレットペーパー1つ買うにしても、安いものを探すだろう。
また「フィリピンに仕事がない」といってもそれは、「まともに稼げる仕事がない」という意味である。
「1日働いて、交通費や昼食代をひいたら、手元に100ペソから200ペソしか残らない」という仕事は、それなりにはある。
自分たちで必死に働いて、どうしても不足する分をほかの兄弟に頼るという発想はあまり聞かない。
フィリピンに長く暮らし、フィリピン人と結婚し、子供もいる日本人の方と話をすると
「フィリピン人でも中流以上の教育をしっかり受けた人と話をすれば、ほとんど日本人と同じ。日本人が多く接するのはカラオケの女の子や貧困層の場合が多い。それが全体像ではない」と言われる。
そうなのかもしれない。
少なくともこの本は、少し違った立場の人(フィリピーナから求婚され、騙されたのではない若き日本人男性)の描いたフィリピン社会の一側面であり、面白く読めた。