金 現物取引をめぐるトラブル
金 現物取引をめぐるトラブル
最近、ある方から相談を受けた。
「香港で金を買って、シンガポールの貸金庫に保管しようと思いますが、どうでしょうか」
皆さんは金の地金というとどんな印象があるだろうか。
「価格変動はあるものの、第2に通貨のようなもの」
「安全資産」
「金現物を持っておけば、銀行預金や不動産、株式などとまた違った一つの資産になる」
そんなイメージだろうか。
確かに富裕層中心に金の現物を所有することが密かに流行っているようだ。
私の人脈、取引先を通じてかなり力を入れて調べてみた。
実際に見聞きしたトラブルおよび素人なりの意見を付けて書かせていただきたい
その1
金の現物の保管はなかなか大変。
金というとそれだけで安全と思い込んでしまうことが多いようだが、目の前に積まれた金の地金が本物であるかどうかは別のことである。
価格相当の本物であるという保証は自分で別のルートで調べなければならない。
表面だけ金で中心部分は鉛であったなどということも散見した。
取引の信ぴょう性を担保するためには、特殊な判定機械を自分で用意して1本1本、鑑定する必要がある。あるいは鑑定する別の会社に持ち込んで自分の目の前で1本1本鑑定してもらう必要がある。
その2
金の購入、保管は手間取る場合が多い。
金の代金を払ってその場で、その金現物が手に入るわけではないことが多い。
一定期間後になる。その間、送信した相手はしっかり対応してくれるのだろうか。
また保管についても、いつでも24時間、購入者だけが入れるのだろうか?
事前通告など自分の貸金庫を開けるにも手間と費用が掛かる場合が多い。
さらにそのような手間暇、コストが送金直前または送金後に説明されることもある。
その3
シンガポールを利用したスキームはトラブルが多い(多かった)
現在、日本に金の延べ棒1本もって入国すればほぼ間違いなく税関には見つかる。
そして消費税等の税金納税義務が生じる。
シンガポールに金現物を持ち込むということは、これと同じことが起きる。
金貨数枚ならば、見逃されることもあるかもしれないが、500グラム、1キロの金を税関に見つからず、シンガポール国内に持ち込むことは、不可能である。
無税の香港で買って、なぜわざわざ税金のかかるシンガポールに持ち込むのか?
「シンガポールの貸金庫で・・・・」というスキームを提案する紹介者、仲介者はこのところには全く触れない。
紹介者、仲介者は金を購入する会社、輸送に当たる会社、貸金庫の会社は世界的な有名な会社を紹介してくる。
ただその会社を本当に使っているのかどうかは、別のことである。
その4
紹介者や仲介者が利益を上げる仕組みが見えない。
(つまり投資家には説明のないところで悪用、流用、最悪、詐取して利益を上げると推測される)
投資関係の情報発信をしている人は、善意、ボランティアでやっている人はいない。
すべて直接、間接は別にしてもすべて自分の利益のために行っている。
このスキームを提案する人達がどこで利益を上げるのか、表向きの説明では理解できない。
購入するときに紹介者手数料が上乗せされるなんてきいたことがない。
輸送するときの輸送料に紹介手数料を上乗せしてもわずかなもの。
投資家から紹介料5万円10万円もらっても、まとまるまでの手間暇を考えればとても割に合わない。
シンガポールを利用したスキームでよくあるトラブルか下記のようなもの。
シンガポールの貸金庫を利用するときは2種類の預かり証、保管証が発行される。
この2つとも手元にあって初めて投資家は金現物を支配下に置くことになる。
ところがこの仕組みを説明せず、投資家には1種類の預かり証だけを渡す。もう1つの預かり証は、シンガポールでは担保の効力がある。つまり現金を引っ張れるのである。
その現金を詐取するなり、自分で運用するなりして利益を上げようとするのではないか。
なお、4-5年前には、この金現物を担保にして現金を引っ張って運用するという投資スキームが良く紹介されたこともあったそうだ。
月1%~3%の配当を保証するとうたう場合が多かったそうだ。
それから4年、5年と歳月が過ぎて、まともに継続している案件は一つもない。
そもそも先進国の預金で最も良いものでも、年利2%程度なかで、そんな配当を約束することは無理である。
一説によるとFX的な運用をしていたそうだが、長期的安定的に利益を上げることができるわけはない。
「シンガポールの貸金庫で…」と聞いた時点で私は、親しい友人、兄弟、親類ならば「絶対やめてくれ」という。
お客様ならば、(あくまでその方の自主的な判断なので)、事実と過去のトラブル、私の意見を添えてご注意申し上げる。
さて、それでは金現物の保管は意味がないのだろうか?
私はもし、金関係で自分の資産を保全したいというならば、次の3つを提案したいと思う。
その1
日本国内の大手(三菱マテリアルなど)で購入して、日本の銀行の貸金庫、または自宅の貸金庫で保管する。
その2
香港のHSBCやハンセン銀行で購入して その銀行の貸金庫で保全する。
その3
金のETFを購入する。
くれぐれも「金現物」という言葉だけで、安全性を過信して、リスクを軽視するのはご注意いただきたい。